生後たった3週間。喜びと同時に、私の心には黒い霧が立ち込めていました。夜は細切れの睡眠、昼間は理由もなく涙が溢れ、「不安」という見えない重圧が胸を押しつぶしそうになる毎日。冷蔵庫を開けるたびに週末に意気込んで買い込んだ食材が目に入り、しおれていく野菜、賞味期限が迫る肉を見るたびに、私の心はさらに深く沈んでいきました。
「また、今日も作れない…」
お湯を沸かす、包丁を握る、フライパンを洗う。その一つ一つの動作が、まるで重労働のように感じられるのです。夫は在宅勤務で家にいるのに、昼ごはんの支度もままならない。「何もしない自分が情けない」「妻として、母親として、失格なんじゃないか」——そんな声が頭の中で木霊し、自己嫌悪の渦に飲み込まれていきました。夫が「何か食べたいものある？」と気を遣ってくれるたびに、その優しさが逆にナイフのように突き刺さる。「迷惑をかけてばかり…なぜ私だけがこんなに何もできないんだろう？」
かつての私なら、どんなに疲れていても手際よく料理をこなしていました。しかし、今の私は、まるで充電切れ寸前のスマートフォン。アプリ（家事育児）を動かそうとすればするほど、電源が落ちてしまう。無理に使い続けようとすれば、完全に動かなくなるのは目に見えています。
この「食事を作れない」という状況は、あなたの怠慢ではありません。産後のホルモンバランスの激変、絶え間ない睡眠不足、そして慣れない育児へのプレッシャー。これらが複合的に絡み合い、心身が限界を迎えているサインなのです。まるで、オーバーヒート寸前の車のエンジン。このままアクセルを踏み続ければ、エンジンそのものが壊れてしまうでしょう。
大切なのは、まずは安全な場所に停車し、プロの整備士（外部サポート）に任せて冷却する時間を与えること。そして、燃料の種類（食事）や運転ルート（家事育児の分担）を見直すことです。目先の移動（食事作り）よりも、車の寿命（あなたの心身の健康）を優先する賢い判断が、今、何よりも求められています。
「母親たるもの、手料理で家族を支えるべき」という社会の呪縛から、一度解放されてみませんか？完璧な手料理よりも、疲弊しきった母親の笑顔が、家族にとっては何よりの栄養です。行政の産後ケアサービス、宅配弁当、ミールキット、地域の家事代行サービス…今は、あなたの心と体を守るための選択肢が豊富にあります。夫に正直な気持ちを伝え、共に解決策を探すことも、とても大切な一歩です。
産後うつは、誰にでも起こりうる、決して珍しいことではありません。あなたが今感じている「情けない」という感情は、社会が作り出した幻想かもしれません。本当に情けないのは、SOSを出せずに一人で抱え込み、自分自身を追い詰めてしまうこと。あなたの涙は、助けを求める勇気ある声です。その声を、どうか無視しないでください。一歩踏み出す勇気が、きっと未来を変えるはずです。