「お昼、何食べる?」
スマホに届いた夫からのメッセージ。会社の食堂で日替わりランチを食べていた私の動きが、ピタリと止まりました。今日もか…。私だってお昼休憩くらい、仕事のことから解放されてホッと一息つきたいのに。頭の片隅では常に、家にいる夫のお昼ごはんのことが、重たい雲のように居座っている。
夫はリモートワーク、私は出社。共働きで、お互いフルタイムで働いているはずなのに、なぜか「家にいる人」の食事の世話まで、出社している私が考えなければいけないのでしょうか。
「家にいるんだから、お昼くらい自分で用意してくれたらいいのに…」
そんな言葉は喉まで出かかって、いつも飲み込んでしまう。波風を立てたくない。でも、私の心の中では、不満と疲労がじわじわと水位を上げて、もう溢れ出す寸前でした。
この記事は、かつての私と同じように、在宅勤務の夫の昼食問題で一人静かに心をすり減らしている、あなたのための物語です。私が「もう作らない」と決意し、夫婦関係を壊さずにこの問題を乗り越えた、具体的な3つのステップをお話しします。
私の心が壊れた日。「ありがとう」の一言もない食卓
その日は、朝から最悪でした。寝坊して自分の準備もままならない中、急いで夫のお昼ごはん用の焼きそばを準備。作り置きの野菜を炒め、麺をほぐし、ソースを絡める。自分の朝食は、駅まで走りながら飲み込んだ栄養ドリンクだけ。
「お昼、冷蔵庫に焼きそばあるからチンして食べてね!」
玄関で靴を履きながら叫ぶ私に、書斎から聞こえてきたのは「はーい」という気のない返事だけ。この時点で、私の心には小さな棘が刺さっていました。
鳴り響く無神経な電話
夕方、疲れ果てて会社を出た直後、夫から電話がかかってきました。てっきり「お疲れ様」の電話かと思いきや…。
「ごめん、今日の焼きそば、ちょっと味が薄かったかも。あと、お肉も入ってると嬉しいなーなんて」
悪気がないのはわかっています。でも、その言葉は、私の心の最後の砦を粉々に打ち砕きました。電車の中だというのに、涙が溢れて止まらない。
(私の朝の努力は、何だったの…?寝る時間を削って、自分のことは後回しにして、必死で準備したのに。感想がそれ…?そもそも、なぜ私が作ることが当たり前なの?あなたは大人でしょう?自分のご飯くらい、自分でどうにかできるでしょうが!)
心の声は、もはや絶叫でした。感謝どころか、まるでレストランのシェフに意見するような口ぶり。私はあなたの母親でも、家政婦でもない。あなたのパートナーのはずなのに。
「当たり前」という名の呪い
家に帰っても、夫はリビングのソファでスマホゲームに夢中。私が買ってきた惣菜を食卓に並べていると、ようやく顔を上げて「あ、お腹すいたー」と一言。
もう、ダメだ。プツンと、何かが切れる音がしました。
この「当たり前」の空気こそが、私を一番苦しめていたのです。「家にいる方が楽」「出社するついでに準備できるでしょ?」そんな無言のプレッシャーが、見えない鎖となって私を縛り付けていました。
| 私の状況 | 夫の状況 |
|---|---|
| 朝は戦場、自分の準備もままならない | 比較的ゆとりのある朝を迎える |
| 満員電車で通勤、心身ともに疲弊 | 通勤時間ゼロ、自宅で仕事開始 |
| 昼休憩も夫の昼食を気にかける | 自分のペースで仕事、昼休憩も自宅 |
| 安い社食で昼食を済ませる | 私が作った昼食を食べる |
| 帰宅後も夕食の準備に追われる | 仕事が終われば自由時間 |
この表を見て、改めて不公平さに愕然としました。これは愛情や思いやりなんかじゃない。ただの「甘え」と「搾取」だ。この日を境に、私は「いい妻」を演じるのをやめようと固く決意したのです。
なぜ私たちはすれ違う?問題の根っこは「蛇口の水漏れ」だった
なぜこんなに辛いんだろう。ただ「お昼ごはんを作らない」と宣言すればいいだけなのに、それができないのはなぜだろう。
悩んでいた私が出会ったのが、あるカウンセラーの言葉でした。
> 「その問題は、『水漏れしている蛇口』に似ていますね。多くの人は、床に溜まった水を必死に雑巾で拭き取ろうとします。これが、時短レシピを探したり、我慢して作り続けたりする『表面的な解決策』です。でも、蛇口の元栓を締めない限り、水は永遠に溢れ続けます。本当にやるべきなのは、夫婦で一緒に『なぜ水漏れしているのか』という原因を探り、『当たり前』という名の緩んだ元栓を、対話によって固く締め直すことなんです」
ハッとしました。私がやろうとしていたのは、まさに雑巾で床を拭くことだったのです。問題の根本は、焼きそばの味でも、お肉の有無でもない。
- 期待値のズレ:「家にいるんだから、昼食も準備してくれるだろう」という夫の無意識の期待。
- コミュニケーション不足:「本当は負担だ」という私の本音を伝えられていない状況。
- アンコンシャス・バイアス:「食事の準備は女性がやるもの」という、お互いの心の奥底にあるかもしれない無意識の偏見。
この「緩んだ元栓」を締めない限り、どんなに頑張っても私の心は満たされない。私たちは、この蛇口を一緒に修理する必要があるんだ、と気づきました。
もう我慢しない!私が実行した「昼ごはん改革」3つのステップ
感情的に「もう作らない!」と爆発するだけでは、関係が悪化するだけだと思いました。そこで私は、冷静に、そして戦略的に行動することにしました。これが、私が実行した3つのステップです。
ステップ1(短期):『私』を主語に、気持ちと事実を伝える
まず、夫がリラックスしている休日の夜に、「少し話したいことがあるんだけど」と切り出しました。ポイントは、相手を責めないこと。「あなたって無神経よね!」ではなく、「私」を主語にして伝えるのです。
- 事実を伝える:「平日の朝、自分の準備とあなたのお昼の準備で、正直すごく慌ただしいんだ」
- 気持ちを伝える:「会社でもお昼のことを考えると、心が休まらなくて、最近少し疲れちゃって…」
- お願いをする:「だから、申し訳ないんだけど、これからは平日のお昼は、お互いそれぞれで用意する形にさせてもらえないかな?」
夫は最初、きょとんとしていました。彼にとって、それは本当に「当たり前」のことだったのです。私の負担に、全く気づいていませんでした。しかし、私が涙ながらに「焼きそば事件」の日の心境を話すと、彼の表情は次第に真剣なものに変わっていきました。
ステップ2(中期):具体的な「選択肢」を一緒に作る
ただ「自分でやって」と突き放すのではなく、「どうすればお互い楽になるか」を一緒に考えるパートナーとしての姿勢を見せることが重要です。私たちは、夫でも簡単にできる昼食の選択肢をリストアップしました。
- 前日の夕食の残り物(スライド式):多めに作っておき、お皿に分けてラップしておくだけ。
- 冷凍食品のストック:冷凍パスタ、冷凍チャーハン、冷凍うどんなどを常備。
- レトルト・インスタント食品の活用:カレー、丼もの、カップラーメンなど。
- デリバリー・テイクアウトの日を決める:週に1〜2回は「楽する日」と決めて、デリバリーを楽しむ。
- 超簡単自炊メニュー:卵かけご飯、納豆ご飯、サバ缶丼など、火を使わないレシピを共有。
このリストを作ったことで、夫も「これなら自分でもできる」と前向きになってくれました。「昼食は各自で」というルールを基本にしつつ、お互いの状況によって柔軟に対応することを確認し合いました。
ステップ3(長期):感謝を伝え、パートナーシップを再構築する
ルールを決めて終わり、ではありません。一番大切なのは、その後の関係づくりです。
- 感謝を伝える:夫が自分で昼食を用意した日には、「ありがとう、助かるよ!」と必ず伝えるようにしました。
- 状況を共有する:「今日は忙しいから夕飯作れないかも」「明日は余裕あるから何か作ろうか?」など、お互いの状況をこまめに報告し合う。
- 定期的な見直し:月に一度、「最近どう?困ってることない?」と家事分担全般について話す時間を作りました。
このステップを通じて、私たちは「家事を分担する」という意識から、「家庭を共同経営するパートナー」という意識に変わっていきました。昼ごはん問題は、私たちがお互いを尊重し、支え合う関係を再構築するための、大切なきっかけになったのです。
昼ごはん問題が解決した後の、驚くべき変化
夫の昼ごはん作りをやめて数ヶ月。私たちの生活には、驚くほどポジティブな変化が訪れました。
| 変化する前(Before) | 変化した後(After) |
|---|---|
| 常に夫の昼食のことで頭がいっぱい | 自分の仕事と休憩に集中できる |
| 無言のプレッシャーで心身ともに疲弊 | 精神的な負担から解放され、心に余裕が生まれた |
| 「やってもらって当たり前」の空気 | 「ありがとう」が飛び交う、感謝のある関係に |
| 見えない家事負担による夫婦間の溝 | お互いを気遣い、支え合う本当のパートナーに |
一番の変化は、私自身の気持ちです。お昼休憩に、心から「ホッ」とできるようになった。夫への不満がなくなり、優しく接することができるようになった。そして夫も、自分で食事を管理するようになり、少しだけ自立したように見えます(笑)。今では「この冷凍パスタ、うまいよ!」なんて、おすすめを教えてくれるまでになりました。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夫が逆ギレしたり、不機嫌になったりしませんか?
A1. 可能性はゼロではありません。だからこそ、伝え方が重要になります。「あなたが悪い」ではなく「私が辛い」というメッセージで、冷静に気持ちを伝えてみてください。感情的にならず、あくまで「相談」という形で持ちかけるのがポイントです。もし相手が聞く耳を持たない場合は、問題が根深い可能性もあるため、第三者(カウンセラーなど)に相談することも選択肢の一つです。
Q2. 食費が上がってしまうのが心配です。
A2. 確かに、デリバリーや中食が増えれば食費は上がる可能性があります。私たちは、お昼ごはんに使えるお金を「昼食費」としてあらかじめ設定し、その範囲内で各自がやりくりするルールにしました。冷凍食品やレトルトをセール日にまとめ買いするなど、工夫次第で費用を抑えることは可能です。何より、あなたの精神的な健康と時間には、それ以上の価値があることを忘れないでください。
Q3. 夫が全く家事ができないタイプなのですが…
A3. 最初は失敗するかもしれません。でも、大人ですから、練習すれば必ずできるようになります。火を使わない超簡単レシピから一緒に試してみるなど、ゲーム感覚でチャレンジを促してみてはいかがでしょうか。「料理ができる男性はかっこいいよ」と少しだけおだててみるのも効果的かもしれません。大切なのは、完璧を求めず、小さな一歩を褒めてあげることです。
「当たり前」の呪いを解き、本当のパートナーになるために
かつての私のように、一人で不満を抱え、心をすり減らしているあなたへ。
そのモヤモヤは、あなたがワガママだからではありません。それは、あなたの心が発している「このままではいけない」という悲鳴であり、変化を求めるサインです。
在宅勤務の夫の昼ごはん問題は、単なる家事の一つではありません。それは、共働きという新しい時代の働き方の中で、夫婦がどう支え合い、どう尊重し合うかという、パートナーシップのあり方を問う試金石なのです。
勇気を出して、あなたの気持ちを伝えてみてください。それは、関係を壊すためではなく、より良い関係を築くための、大切な一歩です。
この記事が、あなたが「当たり前」という見えない呪いから解放され、心からの笑顔を取り戻すきっかけになることを、切に願っています。
