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【共働き50代夫婦の食事】「今日も作りすぎた…」罪悪感から卒業。品数という呪いを解き、夫婦二人の食卓を取り戻す物語

「ただいま」

夫の声に、コンロの火を止める。食卓には、筑前煮、ほうれん草のおひたし、焼き魚、そして豚汁。子供たちがいた頃と、ほとんど変わらない品数が並んでいる。

「すごいな、いつもご馳走だ」

夫は嬉しそうに言うけれど、私の心は晴れない。二人では、到底食べきれない量。わかっているのに、作ってしまう。冷蔵庫には、昨日手付かずだった副菜がまだ残っているのに…。

(また、やっちゃった…なんで、加減ができないんだろう…)

子供たちが巣立って、夫婦二人の生活が始まった。もっとゆとりのある、穏やかな毎日を夢見ていたはずなのに。現実は、終わらない「作りすぎ」のループと、静かな罪悪感だけが募っていく。

これは、そんな空回りの毎日から抜け出し、私たち夫婦が「本当の豊かさ」を見つけるまでの、小さな食卓の物語です。

なぜ、わかっているのに「作りすぎてしまう」のか?

かつて、私のキッチンは戦場でした。育ち盛りの子供たちのお腹を満たすため、品数を揃え、栄養バランスを考え、時間と戦う毎日。それが「母親の役割」であり、私の誇りでした。でも、その役割を卒業した今、空っぽになった巣で、私は同じことを繰り返していたのです。

「ちゃんと作らなきゃ」という見えない圧力

品数が少ないと、どこか手抜きをしているような、妻として、母として失格の烙印を押されるような気がしていました。誰に責められるわけでもないのに、「ちゃんと食べさせなきゃ」という強迫観念が、私をキッチンに縛り付けていたのです。

それは「癖」ではなく「根深い呪い」だった

この問題の本質は、単なる長年の「癖」ではありませんでした。例えるなら、それは庭の手入れのようなもの。

多くの人は、生えてきた雑草の地上部分だけを刈り取ろうとします。つまり、「時短レシピ」や「簡単献立」といった表面的な解決策に飛びつきます。でも、土の中には「品数こそが愛情の証」という、長年かけて深く根を張った”根っこ”が残っている。だから、いくら草を刈っても、すぐにまた同じ悩みが顔を出すのです。

本当に必要なのは、一度しゃがみこんで、土を掘り起こし、その頑固な根っこそのものを取り除く勇気でした。

心のスペースを取り戻すために

「作りすぎ」の正体は、子供の独立でぽっかり空いた心の穴を埋めようとする、無意識の行動だったのかもしれません。「まだ私には役割がある」と自分に言い聞かせるための、空虚な儀式。それに気づいた時、私はようやく、この呪いを解くための第一歩を踏み出す決心ができました。

食卓から始まる、夫婦の第二章への3ステップ

「もう、頑張るのはやめよう」

そう決めてから、我が家の食卓は少しずつ変わり始めました。それは「減らす」という引き算ではなく、「新しい価値観を足していく」という豊かな変化でした。

ステップ1:『一汁一菜』を許す勇気を持つ

最初に取り組んだのは、物理的に食卓をシンプルにすること。

  • 「一汁一菜」を基本にする日を作る: ご飯と、具沢山の味噌汁かスープ。そして、メインのおかずが一つ。最初は物足りなく感じましたが、驚くほど心が軽くなりました。
  • 使うお皿の数を決める: 大皿にドーンと盛り付けたり、ワンプレートにしたり。洗い物が減るだけでなく、「これ以上は作らない」という物理的なストッパーになりました。
  • 「完璧な手作り」からの卒業: 美味しいお惣菜や冷凍食品に頼る日を、週に一度、意識的に作りました。「手を抜く」のではなく「プロの味を借りる」と考えるだけで、罪悪感が楽しみに変わりました。

ステップ2:夫を「お客様」から「パートナー」へ

次に、一人で抱え込んでいたキッチンに、夫を招き入れました。

  • 週末は「献立会議」: 「来週、何食べたい?」と二人で話し合う時間を作りました。夫の意外な好みを知ったり、新しいレシピに挑戦するきっかけになったり、食事がコミュニケーションの中心になりました。
  • 買い物は二人で: 一緒にスーパーに行き、「これ美味しそうだね」と話しながら食材を選ぶ。必要な分だけを買う習慣がつき、食品ロスも自然と減っていきました。
  • 調理家電という名の「新人スタッフ」: 最新の電気圧力鍋やホットクックを導入。「もう一人のシェフ」がいるだけで、時間と心に圧倒的なゆとりが生まれました。

ステップ3:「量」より「質」で満たされる食卓へ

品数という呪縛から解放されると、本当に大切なものが見えてきました。

  • 旬の食材を味わう: 品数を減らした分、少しだけ良いお肉を買ったり、旬の野菜や魚を食卓の主役にするように。素材の味をじっくりと味わう豊かさを知りました。
  • 調味料をアップデートする: 昔ながらの醤油や味噌を、少しこだわりのものに変えてみる。それだけで、いつもの煮物が格段に美味しくなり、料理がもっと楽しくなりました。
  • 器を楽しむ: 二人で気に入ったお皿や箸置きを探しに行く。お気に入りの器に盛るだけで、シンプルな料理もご馳走に見えるから不思議です。

我が家の食卓ビフォー・アフター

私たちの食卓がどのように変わったか、表にまとめてみました。

項目これまでの食卓 (Before)これからの食卓 (After)
品数常に一汁三菜以上。作り置きも多数。一汁一菜〜二菜が基本。
目的家族の健康管理(義務感)夫婦で楽しむ時間(娯楽)
調理担当ほぼ妻一人(ワンオペ)夫婦二人(チーム)
食後の感情食べきれない罪悪感、片付けの憂鬱満足感、会話の余韻、身軽さ
キーワード栄養バランス、品数、時短旬、美味しい、楽しい、健康

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 急に食事をシンプルにしたら、夫から不満が出ませんか?

A1. 最初は戸惑うかもしれません。大切なのは「今日から変えます!」と宣言するのではなく、「これからの二人のために、少しずつ変えていきたい」と相談することです。「私も楽になるし、あなたにも健康でいてほしいから」というメッセージを伝え、一緒に献立を考えるなど、パートナーとして巻き込んでいくのが成功の秘訣です。

Q2. 品数を減らすと、栄養バランスが心配です。

A2. 心配はごもっともです。解決策は「一品に栄養を凝縮させる」こと。例えば、肉・野菜・きのこがたっぷり入った「具沢山スープ」や、鶏胸肉や豆類、ナッツを加えた「パワーサラダ」などは、一品でも満足感と栄養をしっかり摂ることができます。「まごわやさしい(豆・ごま・わかめ・野菜・魚・しいたけ・いも)」を意識して、食材を選ぶのもおすすめです。

Q3. 料理が生きがいだったので、やめると虚しくなりそうです。

A3. 料理の目的を「家族のために作る」から「自分たちが楽しむために作る」へシフトしてみてはいかがでしょうか。時間をかけて作る手の込んだ料理や、少し高級な食材を使った料理など、週末に二人で楽しむ「イベントごはん」として料理を続けるのも素敵です。毎日の義務から解放されることで、料理が本当の「趣味」や「楽しみ」に変わっていくはずです。

食卓から始まる、私たちの新しい物語

今、我が家の食卓は、以前よりずっとシンプルになりました。でも、そこには以前よりもずっと多くの笑顔と会話があります。

「このお豆腐、美味しいね」

「今度、この器に合うあれを作ってみない?」

品数を手放したことで私たちが手に入れたのは、時間や心のゆとりだけではありませんでした。それは、お互いを思いやり、これからの人生を共に味わっていくための、新しいパートナーシップでした。

もしあなたが、かつての私と同じように「作りすぎ」の呪いに苦しんでいるのなら。どうか、自分を責めないでください。それは、あなたが家族を深く愛してきた証なのですから。

でも、その役割は、もう十分に果たしました。これからは、あなた自身の人生を、そして隣にいるパートナーとの時間を、もっと慈しんでいいのです。

さあ、まずは今夜、一品だけ減らしてみませんか?

そこから、あなたの新しい物語が始まります。